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ゲリ雄は躊躇無く、魔法使いが住まう小屋の中に入ります。ここで頻出表現が出てきました。

lift the flap:蓋をぺらりとめくる

この世界の小屋は、おそらく薄汚い布のテント状の小屋が多いのでしょう。無論、入り口も布状です。テントの中に入る際は、布状の入り口をぺろりと捲って入るので、この「lift the flap」というのは至るところで頻出します。まぁ必然的に覚えることになるでしょう。

そして、spellbookを手渡されました。そうです。このゆとり世代用の冒険では、魔術書の持ち出しが可能なのです。なんと便利な世の中になったのでしょうか。しかし、ゆとり世代のゲリ雄は当たり前のようにその魔術書を受け取り、使い方を聞きます。そうです。この世代は、家電を買っても付属のマニュアルなどは読まないのです。困った時に読む。いや、困った時にはマニュアルは既に捨てられているのです。猫は電子レンジに入れてはいけないことを知らない世代です。

haggard:やつれた、げっそりとした

そりゃ、げっそりもするでしょう。

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このSorcery!の世界での魔術体系は、3つのアルファベットのalignment(一列に並んだもの)で表現されます。ゲリ雄も中学時代、ドラクエごっこの興じる友人たちの間で、「ZAP!ZAP!」と叫んだことを思い出しては、にやりと頬を緩めます。魔法使いが、まだ説明を聞くかい?と問われて、ゲリ雄は「Tell me more.」と要請をします。

alignment:一列に並んだもの

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ここで、右上の「Spirit」に注目です。何と「Panther」から「Jackal」に変更してではないですか?このSpirit。どうやら、ゲリ雄の選択肢に沿ってその質が変わる模様です。ゲリ雄が、卑屈な態度を取れば取るほど、ゲリ雄を見守る神の質もどんどん変わっていく模様です。神の種類は、どうやら動物の名前が入る模様です。そんな卑屈なゲリ雄は、自らの神が変わっているのも気付かず、魔法使いにもっと魔術書の中身を引き出そうと、必死に口からおつゆを飛ばして、もっと教えてくれと請い続けます。

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嗚呼。とうとう神が哺乳類から爬虫類にランクダウンしました。厚顔無恥の如く、魔術師の胸倉を掴んで、もっと教えろと強請るゲリ雄も、どうやら背中辺りがムズ痒くらしく、何となく何かを感じたのかもしれません。ようやく魔術師の胸倉を離し、彼を解放するとともに「Spellbook」をひったくるようにして小屋を後にします。

ゲリ雄に気付かれないように、ちょっと右上のspiritの説明文を見てみましょう。

IMG_0499 何かPantherに比べるといい表現の単語が並んでいないように思えます。毒を持つことで、孤独で、疎まれ、孤独で死んでいくような、あまりいい印象を与えるSpiritではありません。ですが、今のゲリ雄にはピッタリな神かもしれません。そのうち、Cobraにも見放されて、節足動物や苔や藻のレベルに落ちるのも近いかもしれません。

perpetual:恒久の、果てしない

viciousness:どう猛さ

cruel:残酷な

cowardly:卑怯な

cautious:用心深い

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そんなSpiritの変化にも気付かぬゲリ雄は、移動マップに戻りつつ、にやりと画面下のアイコンの変化に気付き不適な笑みを浮かべます。「Spellbook」のアイコンのグレーアウトが消えています。先ほど、ふんだくった魔術書が、ゲリ雄の鞄の中に入っています。そうです。このスマホ版Sorcery!は、いつでもSpellbookを見ることが出来るのです。早速、ゲリ雄はエロ本を手にした小学生のように、Spellbookの中を食い入るように見つめます。

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ゲリ雄「はぁはぁ・・・はぁはぁ・・・」

原書ゲームブック版にあった挿絵そのままに、48種類の魔法の説明が記載されています。旅のどこでも、この「spellbook」のアイコンをタップすれば、魔法の名前と効果を確認することができるのです。ゆとり世代に感謝です。

魔術書を覗き込み、ブツブツと呪詛のような独り言と笑みを浮かべるゲリ雄の隣で、サイトマスターの隊長がゴホンゴホンと咳払いをします。ゲリ雄は、「ち・・・」という舌打ちと共に魔術書を閉じると、駐留地の最後の選択肢である「The Training Ground」に向かいます。金貨と魔術書を手に入れれば、もうこんな辺鄙な寂れた場所には用はありません。さっさとイベントをこなして、カントパーニの門へ向かいましょう。

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IMG_0551Traninggroundでは、いきなり戦闘画面に移ります。これがSorcery!シリーズでの戦闘画面のようです。左にゲリ雄。右にはサイトマスターの隊長です。英文を読むと、持っている獲物に皮で包んでゲリ雄の前に立ちはだかります。トレーニングだからと言って、手加減をしてくれているのでしょうが、画面の左右上の双方のスタミナを見れば、「20」と「4」。サイトマスター、はっきりと言ってカスです。こんなコスプレ野郎に負けるわけにはいきません。

サイトマスター「へへ、旦那。まずは手始めに防御から始めやしょうか」

 

どうやら、このトレーニングで戦闘のいろはをコスプレ男が教えてくれるらしいです。

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ゲリ雄は、言われるがまま防御の構えで、コスプレ男の攻撃を受けます。青字がゲリ雄。オレンジ字がコスプレ男の数値です。どうやら攻撃においては、その力の入れようで、「0~9」の攻撃値を選択できるようです。防御は「0」。防御をしても、どうやらダメージを受ける仕様のようです。つーとゲリ雄の鼻から一筋の鼻血が足れます。

ゲリ雄「ち・・・」

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サイトマスター「へへ。旦那、いい防御っぷりで。次のあっしが防御をしやすんで、今度は旦那が攻撃してくれなまし」

ゲリ雄「ぉ・・・ぅぉぉおおおおおおっ!!」

turn away:〔批判などを〕そらす、そらせる

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鼻血を拭いながら、頭に血が上ったゲリ雄は、身構えるコスプレ男に全力で抜き身の剣で襲い掛かります。

ゲリ雄「ゲリ雄スペシャルアタァーーーークッ!」

マックスに力を込めた打撃の数字は、割り当てることが出来る数字「9」のようです。ですが、コスプレ男に与えたダメージは、たったの「-1」です。先ほど、コスプレ男の「0.8」で受けたゲリ雄のダメージが「-1」。今、ゲリ雄が「9」で与えたコスプレ男のダメージも「-1」。これは不公平です。これは不公平です!

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ゲリ雄「何故だっ!・・・・・・何故だっ!」

サイトマスター「旦那。次はこっちから強めの打撃を打ち込みやすぜ。防御か攻撃かは、旦那で決めてくれなまし。行きやすぜ」

糞。糞。ゲリ雄は、廻らない頭で必死にこの戦闘システムを理解しようと試みます。「防御」。どうやら、これがこの戦闘の中で大事なファクターを占めるようです。どんな力で攻撃しようとも、ダメージを最小限に留めるようです。で、あれば。今、攻撃を仕掛けようとしてるコスプレ男に、もっと大きな打撃を与えるチャンスなのでは。ゲリ雄は、爬虫類レベルの脳でそう判断しました。もう1度だ。もう1度、マックス「9」の力を込めたゲリ雄スペシャルアタックだ!

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ゲリ雄「ゲリ雄スペシャルアターーー、な、なにぃ!?」

「9」の力を込めたはずのゲリ雄の必殺の一撃には、その半分「4.5」の力しか込められていません。コスプレ男の攻撃は、それを超える「6」の攻撃。ゲリ雄は、一気に「-3」のダメージを受けて、後方に倒れこみます。

ゲリ雄「げぇぇぇ! うげぇぇぇ!」

コスプレ男の攻撃が鳩尾にのめり込み、ゲリ雄は今朝食べたばかりの朝食のケロッグコーンフレークの咀嚼物を地面にぶちまけます。ど、どういうことだ。俺はゲリ雄スペシャルアタック(略してGSA)を繰り広げたはずだ!何故だ!何故だぁ!

ゲリ雄もといゲロ雄は、目の前の地面のケロッグコーンフレークの数を数えながら考えます。これこそが、このSorcery!の戦闘システムの肝なのです。与えられた「9」の攻撃力をうまく配分させながら、「防御」と「攻撃」を繰り返して、相手に体力を削る。これが、Sorcery!の戦闘システムなのです。1度大きな攻撃をすると、その攻撃力のMAX値が制限されるシステムなのです。9のGSAの次のGSAのMAX値が4.5。すると、次のGSAは、2.25。すると、次は、1.25だとぉ? ゲロ雄、計算を間違っていますよ。ですが、無駄な攻撃を繰り返すと、戦闘がジリ貧になるということだけはわかりました。どうする? ゲロ雄?

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ゲロ雄の予測どおり、チャージできる攻撃力はMAXで2.3。コスプレ男は、「弱い攻撃」をすると宣言していますが、疑心暗鬼のゲロ雄はもう何も信じることはできません。弱い攻撃と言いながら、2.4辺りの攻撃を出してくるんじゃないか。ゲロ雄の下着は、薄っすらと濡れ出します。「攻撃」か「防御」か。ゲロ雄の判断を待たず、コスプレ男が動き始めました。

ゲロ雄「ぅ・・・うわああああああ」

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「防御」。それが、ゲロ雄が咄嗟に判断した選択肢でした。そして、それは間違っていなかったのです。画面に現れる無常な数字。「2.4」。ゲロ雄が繰り出せる最大攻撃力のたった「0.1」を上回る力で、コスプレ男は攻撃をして来たのです。

サイトマスター「旦那。やるじゃないですか。ケケケ」

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何が「やるだ」。ゲロ雄はそう震える歯をかみ締めながら、口元のゲロを服の袖で拭って少し冷静を取り戻し、ゲリ雄に戻ります。それは、自身の攻撃力のチャージメーターを確認できたからです。戻っている。少しだけだが、戻っている。ゲリ雄はそう確信できました。そうです。このSorcey!の攻撃システムでは、「防御」を選択することにより、相手の攻撃を最小に留めることのみならず、自身の消耗した攻撃力を回復させることができるのです。

サイトマスター「へへ。次は「防御」をしやす。「防御」ですぜぇ」

そう言いながら、コスプレ男は両手をだらりと下げます。両手ぶらり作戦。何と高等なテクニックか。本当に防御をするのか。防御と言いながら、攻撃をしてくるんじゃないか。本当に防御なら、攻撃チャージは節約したい。次のGSA(ゲリ雄・スペシャル・アタック)のタイミングのために、最小限の。そう。「0.1」ぐらいの攻撃で、相手のスタミナを確実に「-1」削って行きたい。しかし、相手が「0.1」を上回る些細な攻撃を加えるだけで、反対にこちらがダメージを食らってしまう。どうする? どうする? ゲリ雄!

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ゲリ雄「えぇい。ままよ!」

ゲリ雄は、最小限の攻撃。次なるGSAのために、最小限の攻撃を繰り広げました。対するコスプレ男は宣言どおり「防御」!ゲリ雄は思惑通り、最小限の攻撃チャージで、確実にコスプレ男のスタミナを削ることに成功しました!

サイトマスター「へへ。旦那。やるじゃないですか」

コスプレ男も、この短い間でのゲリ雄の成長に目を見張っているようです。

サイトマスター「へへ。旦那。じゃぁ、次は・・・」

コスプレ男は、更なる心理戦をゲリ雄にけしかけて来ます。(ざわ・・・ ざわ・・・)

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なんと。コスプレ男は無言で杖を構えなおします。どうやらその構えは防御のよう。しかし、防御するとも攻撃するとも言ってくれません。そうです。これこそが、本来の戦いのスタイルなのです。解説しましょう。このSorcey!では、これからカントパーニから旅立つ長い旅路の中、このような無数の戦闘をゲリ雄は繰り広げなければなりません。無論、相手はコスプレ男のように「攻撃」か「防御」を宣言してくれるわけではありません。しかし、戦闘には次なる動作に移る事前の予備動作というのがあるのです。右ハイキックを繰り出す。その前には、軸足である左足に重心をかける。その重心をかける動作の予備動作として、数回大きく息を吸う。その動作。その視線。服の下に隠れている筋肉の脈動。その更なる下に流れる血液の循環。鼓動。気配。耳を澄ませば、鼓膜から伝わる相手の呼吸音。心臓音。定期的に繰り返されるその呼吸音に訪れる微妙な変化。このSorcery!では、その相手の動作を「英文」で表現してくれます。その微妙な所作は、中学生で習う単純な動作を表す一般的な英単語などではなく、我々が高等教育で学んだ以上の高等な文芸小説なので用いられる人の感情の細かい機微を表現できる「趣のある表現」が使われることも多々あるのです。マンパン砦まで辿り着くためには、このような戦闘の中で的確に相手との駆け引きに打ち勝つ必要があり、そのためには、ゲリ雄も更なる「英語力向上」を武器として、戦闘に挑まなければなりません!

ゲリ雄「はぁ・・・はぁ・・・」

しかし、この場面はまったくヒントがありません! 防御であれば、先ほどのように最小限の攻撃であれば、攻撃力もチャージされて、次回の攻撃時にはGSAの攻撃が可能になるほど、攻撃力は回復していることでしょう。でも、相手が攻撃を繰り出せば、逆にこちらが攻撃を受け、再びゲリ雄からゲロ雄に格下げされることは間違いありません。で、あれば。最小とは行かず、それも程ほどの攻撃力の数字の大きさ。リスクに保険をかけながらも、次回に現状維持でつなげられる選択肢。これか。これかしかないのか。それが、ゲリ雄が選んだ選択肢でした。

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ゲリ雄「うわああぁぁあぁ!」

最小の攻撃でもなく、最大の攻撃でもない。中くらいの攻撃。それがゲリ雄の選択肢でした。しかし、この選択肢が後々ゲリ雄の身に降りかかる災いであることは、この時ゲリ雄は露とも思ってはいませんでした。

サイトマスター「へへ。旦那。あっしの構えは防御だったのに、迷いやしたね。へへ」

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サイトマスター「次は、あっしから攻撃しやすぜ。それも強めの攻撃ですぜ」

ゲリ雄は身構えます。ちらりとコスプレ男のスタミナを見ます。残り「1」。であれば、この一撃に打ち勝てば、この戦闘はゲリ雄の勝利となります。自身の攻撃メーターを見ます。先ほど、適度な攻撃に抑えたために、八部ほどの力は溜まっています。マックスGSA(ゲリ雄・スペシャル・アタック)とは行かなくとも、プリGSAぐらいなら可能な攻撃力は蓄えられています。ゲリ雄は思います。あの時と同じだ。だったら、イけるゼ!

ゲリ雄「ぅ・・・ ぅおおおおぉおぉぉぉ! 震えるぞハート! 燃え尽きるほどヒート!」

ゲリ雄は自分のチャージばかりしか考えていませんでした。このSorcery!システムは、勿論のこと相手の攻撃チャージの残量の値を確認することはできません。しかし、ゲリ雄は一呼吸して考えるべきでした。コスプレ男は、既に2回連続で防御をしていたことを。彼も2回分、しっかりと攻撃力を回復させているかもしれない、ということに。

ゲリ雄「ゲリ雄スペシャルアターーック!!」

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 ゲリ雄(青)「7.1」 vs コスプレ男(オレンジ)「7.8」

 判定! 勝者! サイトマスターッ!!

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急ぎました。急いでしまいました。勝負に急いでしまったのです。この震える緊張感。扱う互いの命の取り合い。置かれる非日常のこの切迫感。細胞が。本能が。ゲリ雄を急がしてしまったのです。いち早く、抜けたい。こんな戦闘から逃げ出し、抜け出したい。そういう一縷の淡い思いが、ゲリ雄の選択肢を誤らせてしまったのです。再びゲロ雄に戻り、地面にぶちまけられた昨晩食べたケンちゃんラーメンの溶解物を眺めます。見れば、自身の攻撃チャージは半分も切っています。気がつけば、スタミナは「20」から「11」まで下がっています。最初、カスと見下していたコスプレ男のコスプレが、格好良く見えてきます。

サイトマスター「へへ。旦那。次は中ぐらいの攻撃で行きやすぜ」

もう戦闘の流れは、完全にコスプレ男の流れです。もうゲロ雄は防御以外の選択肢はありません。

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素直にコスプレ男の攻撃を甘んじ、攻撃力チャージに勤しむしか手はありません。

ゲロ雄「はぁ・・・はぁ・・・ふぅ・・・ふぅ・・・」

過呼吸状態のゲロ雄のスタミナは、とうとう最初からの半分。「10」に達してしまいました。

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薄れる意識。流れる汗が目に入り、視界もぼやける。口から漂う胃液の匂いが、幸い気付け薬のように辛うじて、ゲロ雄の意識を繋いでいる状況でした。

サイトマスター「次は、弱い攻撃で行きやすぜ、旦那」

ゲリ雄「はぁ・・・ はぁ・・・」

本当に。本当に弱い攻撃なのだろうか。弱いと言いながら、強い攻撃を出すんじゃないか。そんな疑心暗鬼に襲われながらも、この心理戦の戦闘システムにゲリ雄は辟易します。嗚呼。ゲームブック版のソーサリーだったら、何も考えずにサイコロさえ振っていれば戦闘は進んだというのに、なんだ。この戦闘システムは。丁と思えば半。半と思えば丁。思い通りに行かない今までの俺の人生そのものじゃないか。受験には失敗し、憧れだったクラスの女子はDQNに寝取られ、半ばニート状態で腹が減ったら壁ゴンで、母親に食事をオーダーする毎日。それも全て、俺を苛めたあのクラスのDQNどものせいだ。あいつらさえ居なければ、今頃は一流大学に入り、一流企業に就職して、海外のビジネスエリートたちとワイン片手にマンハッタンで商談をこなしている俺だと言うのに。畜生。畜生。どこだ。どこで狂ったんだ、俺の人生は。

朦朧とする意識で、サイトマスターの顔が学生時代、ゲリ雄を苛めたDQNの顔に見えてきます。

ゲリ雄「糞・・・。糞・・・。糞ぉぉぉぉぉ!!」

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無心に振りかぶったゲリ雄の一撃は、コスプレ男の振りかぶった杖を弾き飛ばし、その勢いのまま二の太刀でコスプレ男を袈裟切りで切って伏せていました。

サイトマスター「旦那! お見事です!」

ゲリ雄は気がつけば、痺れる手の感触に圧倒されていました。先ほどの一撃は、まったく無心の一撃でした。追い詰められたゲリ雄の選択肢は、運よくコスプレ男の攻撃を上回っていたのです。しかし、冷静に考えれば、追い詰められていたのはコスプレ男の方だったのです。つまり、コスプレ男のスタミナが「1」に達した時点で、コスプレ男の選択肢は、既に「攻撃」しかない状態だったのです。チャージ目的に「防御」を選択したとしても、攻撃をされれば「-1」でスタミナを削られ、敗北を意味します。コスプレ男は、挑発を繰り替えし、攻撃をするしかなかったのです。その相手の心理を理解できれば、ゲリ雄はもう少し有利に戦闘を運べたはずです。しかし、この一連のトレーニングでゲリ雄が得ることが出来たことは多くありました。このSorcery!での戦闘システム。攻撃/防御の駆け引き。GSA。そして、ケンちゃんラーメン。

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サイトマスター「旦那。もう1戦していきやすか?」

コスプレ男が息を切らしてそう提案しますが、ゲリ雄は急いで頭を振って断ります。

サイトマスター「旦那と手合わせをして、あっしもうずうずしてきやした。どうです? あっちの広い広場で、本気のセメントマッチといきゃせんか?」

そう言って、コスプレ男は目で広い広場を指して、ゲリ雄との再戦を要請してきます。

breathlessly:息を切らして

bout:〔ボクシングなどの〕試合、一勝負、競争

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長い戦闘を終えてゲリ雄はMAP画面に戻ります。先ほどの戦闘はトレーニングということで、10まで減っていたスタミナも20まで回復しています。MAP上の選択肢では、先ほど再戦を希望していたコスプレ男が広場に立って、ゲリ雄を目で挑発しています。そしてもう一つが「Approach the gate」。とうとうアナランドを経つ門のようです。

次回「旅たち3」に続く。

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